忘れるなよ時間軸

先日、クラウド交流会という起業家のプレゼンを中心とした地元でのビジネス交流会に初めて参加しました。若者から主婦まで各自が色々な形態のビジネスプランを発表し、優勝者には来場者から集めた金額の一部が賞金として贈られるというもの。
起業者にとっても自身の事業を世に知らしめる絶好の機会ですし、支援する人たちもスタッフとして参加することで自己アピールできるし、更に来場者はこれから起業したり、既にビジネスを始めている人も新たな刺激になったりと、ビジネス交流会の新しい形でとても新鮮に感じました。
主催する四宮琴絵さんの軽妙でテンポの良い仕切りにも関心しましたし、市長、釧路商工会議所、K-Biz、各金融機関と支援機関や新聞等メディアも数多く参加していて注目度も高いようです。

そんな感じでとてもインパクトのあるイベントだったのですが、基調講演で聴いた北泉開発の曽我部元親さんのエゾシカ事業の話の中のある言葉に強く反応しました。

実は曽我部さんの講演は過去にも聴いていますし、実際にエゾシカ牧場や併設されたエゾシカ記念館で色々な話をしていただき、事業の内容やこれまでの事業化に至る様々な苦労談もお聞きしてある程度理解していたつもりだったのですが、今回はそれに加えて「時間軸」というお話をされました。

エゾシカ肉は今でこそ地元では普通にスーパーで流通していますし、レストランでも地元食材の目玉としての地位を確立したと言っても良いと思います。
しかし、ちょっと前までは中々抵抗感のある食べ物としてイメージが先行し、曽我部さんも事業を始めた初期の頃に相当悩み、試行錯誤を繰り返したと言います。

そんな折、当時釧路公立大学学長だった小磯先生に受けたアドバイスが転換点になった。
人間の一番保守的な部分は何か?
それは食の部分である。
かのマヨネーズでさえ日本に定着するまでQP社は30年かかった。
食べたことのない食を社会に定着させるには、それなりの長い時間軸で物事を考えること。

この言葉で曽我部さんは踏ん切りがついたと言います。
そして様々な改善と努力を継続して、時間の経過と共に、小磯先生の言葉通りじわじわとエゾシカ肉が社会に浸透してきたのです。

この一連の話を聞いていて、この時間軸という考えは、エゾシカビジネスに限らず、全ての事業を考えるうえで教訓となる思考軸ではないかと思いました。

食に限らず30年ビジネスを継続するのは大変だ。
1年や2年で終了して良いビジネスはないはずだが、我々は短期的思考に陥りがちだ。
冷徹に回りや過去を見渡してみても、長い時間軸で散っていく商売もあれば、食に関る産業のようにむしろ長い時間軸で少しずつ浸透していくものもある。もちろん、個々の事業家の経営努力が欠かせないのは言うまでもない。

企業家の一世代と言えばちょうど30年位。
1年、2年では見えないけど、10年経てばひと昔、世の成り立つ業種も変われば、世代も変われば、人は必ず死んでいき、プレイヤーも変わる。
ましてや30年ともなれば・・

この長い時間軸、貫けるのは事業への信念、強い思い、しかないのかもしれない。
時間軸、30年、考えてみる。我もまた・・。