見えている?見えていない?

この不思議な現象を初めて体験したのは丁度バブル崩壊が始まった頃だったと思います。

僕が勤めていた情報処理会社はバブル期の放漫経営がたたって倒産寸前でした。
一部上場会社を頂点とするグループの子会社で財務的な支援もあり倒産は免れましたが、旧経営陣は退陣し、新しいK社長が来ました。

事業規模を半減させる人員削減、あらゆるコストの見直し、不採算事業から撤退し採算性の合う事業へのシフト、さらに社員のモチベーションを上げるTQC活動など、矢継ぎ早に改革案と次々に断行し、黒字化、数年で累積債務を解消しました。

僕にはそのK社長が来ると聞いた瞬間に「きっと行ける」と確信しました。
何故なら、この会社に転職する前の会社で、このK社長は倒産寸前だった運輸会社を見事に再生した僕のボスだったからです。

でもこの2件の企業再生の当事者でもあった僕は、この2社が再生できたのは、K社長のカリスマ性、リーダーシップの賜物であり、極めて稀有な偶然が重なった幸運な事例だと思っていました。

その後、経営コンサルタントとして独立して企業再生の現場を数多く経験してきました。その経験というか結果から、上に書いた企業が再生できた要因は経営者個人の資質や力量もさることながら、もっと別の要素が大きく絡んでいると考えるようになりました。

その経験的事実とは、「どんな経緯にせよ経営者が交代した場合に企業が再生する確率が極めて高い」ということです。

経営者が交代する原因は、病死や自殺、体調不良など突然訪れる場合もあるし、計画的な事業承継で親から子へ、さらに後継者がいない場合のM&Aによる交代等様々です。

どんな交代でも、少なくと資金調達でギリギリでも経営が維持できた場合には、年数を要することはあっても、結果的に再生できることが多かったし、優良企業へと成長できた会社もある。

何故、新しく来た経営者は企業を再生できるのか?
それは恐らく「見える」からだと思うのです。今がどんな状態なのか「見える」、これから何をなすべきかが「見える」、外から来た人間だからこそ「見える」。

逆に言うと旧経営者は、今目の前で起きていることが「見えていない」。顧客も従業員もそっぽを向いているのが「見えていない」。「見えていない」のだから変えることもない。

だから「見えていない」ものを「見せる」のも僕の仕事の一つなのです。

経営者にとって現状が「見えていない」のは恐ろしいことです。
そこに全ての停滞の芽がある。

年末の大掃除ついでに、「見えている」かどうかご自身を振り返ってみては如何?