人が採れる会社、採れない会社

「働く人が居ない」問題は日に日に深刻化しています。今後も働き手が長期的に減っていくのは統計学的にも明らかで、どの企業も等しく雇用環境が著しく悪化しているのは間違いのない所。
先日も、この課題の解決策について色々と意見を求められました。

当然、政府としても働き手の絶対数を増やすために雇用に関する規制を緩和し、外国人、シニア層、女性等の戦力化に本腰を入れるべきで、日本存亡の危機と言っても良い位の事態だと思います。

それはそれとして、個々の特に中小企業の雇用戦略についてどう考えたら良いのでしょうか?

以前、会社員時代に労務担当職だったことがあります。
トラック運送業で、経営者が代わり長い低迷を抜けて丁度成長期にさしかかった頃で4名ほど乗務員を募集しようということになりました。

当時のK社長は「どうせ募集するなら良い人を採りたい」ということで、選抜試験をやることになり、その試験問題の作成を自分が担当することになりました。

当時、従業員数100名程度の地方のトラック屋としては異例のことで、学科試験と一般常識と中学生レベルの問題を組み合わせて何とか作成しました。

さらに新聞に大きめの募集広告を出したのですが、4名の採用枠に70名を超える応募者が殺到し、その中から4名が選抜されました。K社長の狙い通り、とても良い人を採用することが出来ました。

これだけの人がトラック運転手の職を求めて集まった背景には、当時としてはあまり聞いたことがない思い切った募集広告を出したことがあると思います。

さらにそれに加えて、会社の評判が口コミで拡がっていたこともあったと思います。労働条件は市内でも良い方だったことと、K社長に経営者が交代して企業再生途上で、社員が「ウチの会社は良くなったし発展するよ」と無意識のうちに人に話していた口コミがじわじわ業界内に拡がっていた。

時代は変わり、運送業界も今や運転手不足で業務を縮小する会社が相次いでいる世の中です。あらゆる業種で、一番の経営課題は「人が居ないこと」になりつつある。

この問題の解決策を上述したK社長の雇用戦略に手がかりを求めてみます。
一つは、(1)労働条件や社内のコミュニケーションなどの内部環境のレベルを上げること。当たり前ですが、ブラック企業に人は来ないし、いつかない。
それと、(2)会社の労働環境の様子を内外に発信することに尽きるのではないかと思います。
順番としては当然、(1)内部環境の改善、があって初めて、(2)内部環境の発信、が出来る。

今だと、『会社の評判』なんてネットサイトもあり、ある程度の規模の会社なら大抵内部の人からのコメントが複数投稿されており、会社の評価や雰囲気がある程度分かり、ブラック企業であれば思い切りバレてしまいます。

後はSNSやブログでの社員からの発信は決定的な働きをする。
もし、自社がブラック企業などではなく、内部環境を発信しても大丈夫な会社であれば、ここで発信する、しないで相当差がつくし、現に大きな差が出来ていると思います。

上述したK社長の時代と今の時代との決定的な違いは、ネットやSNSによって、以前はブラックボックスだった会社内部の雰囲気や空気がかなりの程度、外に居る求職者から見えるということだと思います。

SNS社会になって、内部的に良い会社は、良い発信をすることが出来て、さらに成長を加速することが出来るし、逆に内部的に組織が脆弱で社員のモチベーションが低い会社は身動きがとれずさらに衰退する。

そういう意味では、この雇用難の世の中では、ネットとSNSが企業の成長も衰退も凄まじく早めて増幅する。
雇用とマーケティングが表裏一体となった時代、そんな力学が働いているのだと思います。

これを恐ろしい世の中と見るか、喜ばしい世の中と見るか、あなたはどちらでしょうか?